若年性認知症 | ブレインケアクリニック

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2017年06月4日  2017年06月5日

若年性認知症

若年性認知症の概要

若年性認知症は65歳以下で発症する認知症です。若年性認知症は家庭や職場での役割の大きい世代で発症することから、経済、医療、ケアなどで多くの問題があります。

厚生労働科学研究(平成18年〜20年度の3年間の全国調査)によると、全国の若年性認知症患者数は約3.78万人と算出されています。18~64歳人口における人口10万人あたり若年性認知症患者数は、47.6人であり、男性57.8人,女性36.7人と男性が多くなっています。

若年性認知症のうち、もっとも頻度が高いのは脳血管性認知症(39.8%)で、それに続いてアルツハイマー病(25.4%)ですが、重要なのは、それ以上進行しない認知症なのか、進行していく認知症なのかを見極めることです。脳血管性認知症、頭部外傷後遺症は固定した状態で、動脈硬化の治療を行ったり、リハビリによって症状が回復する可能性がありますが、若年で発症する代表的な神経変性疾患、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症は早期に診断をつけなければ、一般的な高齢者の認知症より早く進行していきます。アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症は、ここの症例の経過にもよりますが、精神症状や認知機能障害で発症する症例が多いようです。

若年性認知症の診断に際しては、一般の認知症症例と同様、認知機能の評価、画像検査などを行います。早期診断のためには、認知症の前段階である軽度認知機能障害(MCI)を見極めることが重要です。

 

MCIの診断基準

  1. 本人もしくは家族から物忘れの訴えがある
  2. 年齢による影響以上の記憶障害を認める
  3. 全般的な認知機能は正常範囲内である
  4. 日常生活動作は障害されていない
  5. 認知症の診断基準は満たさない

 

MCIと診断された場合、背景にある基礎疾患の検討が重要です。代表的な疾患としては、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳髄膜炎、甲状腺機能低下症などがあります。特に、若年性認知症の初期の診断では、これらの疾患も念頭に置きながら、適切な血液生化学検査、画像検査、必要によっては髄液検査なども行う必要があります。当院でできない検査については適切な対応ができる医療機関をご紹介します。これらの疾患は適切な治療により認知症状の回復が期待できます。

いわゆる精神科疾患、向精神薬の長期服用でもMCIの病態を呈することもあります。精神疾患の中でも、うつ病症例では思考制止などの症状が強い場合には仮性認知症と呼ばれる病態が出現します。精神科医による診察と、当院の認知機能検査で客観的な鑑別が可能です。早めにご相談ください。

せん妄状態もMCIの状態を呈することがあります。典型的なせん妄では、急激な発症で、意識障害、見当識障害、幻覚、妄想、興奮を認め、夕刻〜夜間に悪化する傾向が見られます。一方、低活動型せん妄では、寡動・寡黙を特徴として、精神運動活動や覚醒水準が低下し、傾眠傾向をときに認めます。幻覚や妄想なども目立たず、激しい興奮などもありません。見当識の障害や、注意力の低下などを注意深く確認することで初めて診断がつくことも多い疾患です。脳波検査も鑑別には有用です。

睡眠導入剤、抗不安薬などによる認知機能低下もあります。複数の病院や診療科を受診している場合には、お薬手帳など現在服用している薬がわかるものをお持ちください。

 

代表的な若年性認知症の特徴

1)若年性アルツハイマー病

アルツハイマー病の主な病態は大脳皮質、海馬を中心とした脳内のアミロイドβの異常凝集・沈着による神経細胞脱落です。本来65歳以上が好発年齢ですが、40代から発症するケースもあります。早発性の特徴としては、より急速に荒廃する経過を取り、多発性の高次皮質機能の障害を伴います。ほとんどの症例で失語、失書、失認及び失行が比較的初期から認めらます。他にも、高齢発症と比較して近時記憶障害、不安症状が強く、画像所見では側頭頭頂葉の萎縮、海馬の萎縮、後部帯状回の血流低下なども重要な所見です。また、若年性アルツハイマー病は遺伝学的素因を背景にすることも多いです。一部では家族内に発症者が多発する家系も報告されており、プレセニリンという遺伝子異常を中心におもに常染色体優性遺伝形式をとります。両親、同胞の発症者が集中しているようなケースについては要注意です。家族性アルツハイマー病ではけいれん発作、ミオクローヌス、痙性対麻痺などの神経症状を呈することもあります。若年性アルツハイマー病では急速に中核症状が進行し、多彩な周辺症状が見られます。

若年性アルツハイマー病の治療は、可能な限り早期からコリンエステラーゼ阻害薬を開始します。効果が不十分な場合や周辺症状のコントロールのために、適宜NMDA受容体拮抗薬を併用します。

2)レビー小体型認知症

おもな病態は、大脳皮質及び基底核におけるレビー小体の出現とそれに伴う神経細胞脱落です。レビー小体型認知症は初老期(50〜60代)が好発であり、若年性認知症の中でも比較的頻度が高いものです。初期は記憶障害を呈しアルツハイマー病と鑑別が困難な症例も多いのですが、注意障害や視空間失認などの前頭葉、後頭葉の障害に由来する症状も当初から見られることが多くあります。他にレビー小体型認知症を特徴付ける症状として、抑うつ症状、アパシー、幻視などの特徴的な精神症状が認められます。他にも認知機能の動揺性、パーキンソン症状、REM睡眠行動障害、向精神薬に対する感受性亢進などが挙げられます。脳血流SPECT検査では、後頭葉の血流低下が重要な所見です。また、123I-MIBG(体内でノルアドレナリンと同様の指標となる)の心筋への特異的な取り込みの低下が類縁疾患であるパーキンソン病で報告されています。

レビー小体型認知症の薬物療法では、精神症状にはアルツハイマー病同様にコリンエステラーゼ阻害薬を使用し、抑うつ、幻視などに有用です。パーキンソン症状にはレボドバの使用が推奨され、抗コリン薬は認知機能の低下、せん妄の惹起などのリスクがあるため控えます。

3)前頭側頭葉変性症

全認知症の10数%を占め、初老期(50~60代)が好発です。前頭側頭葉変性症では、前頭葉、側頭葉を中心に、病的なタウが生じ、神経細胞の変性が生じる。タウとは神経細胞の機能発現に重要な働きを持つ微小管を安定化させ、神経細胞骨格の保持の機能を有しています。

前頭側頭葉変性症はおもに、ピック病、進行性非流暢性失語症、意味性認知症を含む総称です。ピック病では感情・情動の変化が初期から見られます。多幸的である場合や不機嫌さが目立つ場合も多いです。他にも反社会的・脱抑制的な言動(万引きなど)、情動言動、強迫傾向、自発性の低下、食行動異常などが特徴的な精神症状です。症例によっては躁状態、進行性非流暢性失語症は吃音、構語障害、錯語が目立ち、意味性認知症では、言葉の意味が失われる、語義失語が見られる。画像検査は補助診断であり、頭部MRI検査、脳血流SPECT検査では前頭側頭の萎縮、血流低下が認められます。診断には臨床的な症状の観察が重要です。

前頭側頭葉変性症の治療では、中核症状に対してはメマンチンが有用との報告がされていますが、保険適応上は認められていません。経過上、特にピック病では多彩な精神症状、行動障害のため、対症的な治療に追われることが多いです。行動障害、強迫性に対して選択的セロトニン再取り込み阻害薬が有用と報告されていますが、標準的な治療ではありません。

4)その他

その他の原因については、ご本人や家族のニーズを伺いつつ、個々のケースに応じてもっとも適当と思われるアプローチを検討します。

 

具体的な支援

1)適切な医療機関につなぐ

認知症の診断が進む中、若年性認知症の人もごく初期に診断される場合が増え、また診断が困難な場合も増えています。2〜5年の経過を見る中で確定していく場合もあります。また、生活習慣の改善や他の疾患の治療を行うことによって、物忘れや作業能力低下が改善され最終食に至る場合もあります。支援者は他の疾患の可能性を見逃さず、医療機関に適切な情報提供を行なっていくことや、セカンドオピニオンを進めることも時に必要です。

2)就労継続の支援

 a) 現在の職場で就労継続を目指す

精神障害者福祉手帳の取得により、障害者の法定雇用率に換算されることにより就労継続できないかを問い合わせてみましょう。

 b) 再就職、就労移行支援の利用

すでに退職している場合は、ハローワークで再就職を目指すことも検討します。しかし、再就職先が見つからない場合、もしくは離職して数年経過しているような場合で就労の可能性がある場合は、就労移行支援を利用して就労の可能性を広げていきます。

 c) 福祉的就労支援

就労移行支援の事業所に通い訓練を行うのが困難なケースは、おもに軽作業を行う就労継続支援A型もしくはB型事業所に通う方法もあります。

3)経済的支援

障害者手帳の交付により、税の減免や美術館などの割引が受けられます。子供の学費についてはひとり親家庭への就学資金、あしなが基金などを活用することも可能だった例があります。在職中に障害者手帳の交付を受けていれば、失業保険の給付日数が長くなります。ローンや生命保険は、高度障害に該当すると認められれば支払いが免除される場合があります。また、精神通院の指定を受けている医療機関では、自立支援医療(精神通院医療)の制度が利用でき、原則として医療費の1割の負担で受診できます。さらに、診断より1年半経てば、年金の手続きもできます。

4)当時者交流会、仲間づくり

仲間と出会い、自分だけではないと知ることが、自らの可能性を再認識することや気力にもつながっていきます。加えて情報交換の場やピアカウンセリングの場となる、身近な当時者交流界の場を紹介したり、ない場合はその場を作っていくのにも役立ちます。

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クリニック概要

医療法人社団TLC医療会 ブレインケアクリニック

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